2024年度 第11回IRMAILサイエンスグラント
「NEB賞」・「IDDK賞」採択者発表


NEB賞


  • 採択者  東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科
         准教授 志波優 先生

  • テーマ  「高感度Virome解析のためのメタトランスクリプトーム・ライブラリー調製の
         技術開発」


≪研究について≫
培養して研究できる微生物は自然界のわずか数パーセント程度と言われています。そこで、どのような生物種がどの程度存在するかを調べるために、様々な環境サンプル(大気・食品・土壌・糞便・昆虫・人工環境表面など)中から網羅的に核酸(DNA/RNA)を抽出し、次世代シーケンサー (NGS) を用いて塩基配列を解読する、
メタゲノム解析を中心に研究を行っています。2020 年の新型コロナウイルスのパンデミック以降、ヒトが接触するドアの手すりやテーブルといった人工環境表面由来 RNA から、NGS を用いてウイルスを含む網羅的な生物種の検出を試みる「環境メタトランスクリプトーム解析」の研究を始めました。人工環境表面からスワブ(綿棒)を擦って得られる RNA は極微量なため、NEB 社のライブラリー調製キットを用いて、プロトコル要求 RNA 量未満からの解析の可能性と、Spike-in 実験による
合成 SARS-CoV-2 RNA の検出限界の検証を進めています。プロトコルの一部改変により要求 RNA 量未満からでも良好なライブラリーが得られ、Spike-in した
合成 RNA の検出もできました。しかし、実際の環境表面由来 RNA には、ウイルス・細菌よりもゲノムサイズが大きな巨生物(真菌・ダニ・花粉等の真核生物)
由来 RNA が予想以上に豊富で、これらがウイルス由来リードの検出感度を低下させることを明らかにしました。今後はRNA抽出前にフィルター濾過することで、
巨生物の除去を行い、ウイルス由来配列の検出感度の向上を目指します。
新型コロナウイルスの検査は PCR や抗原検査が一般的ですが、PCR 検査を行うにはウイルスのゲノム配列を解読して特異的なプライマーを設計する必要があります。
本研究では今後も起こりうる未知の新興感染症によるパンデミックに備えるために、メタゲノム解析による環境サンプルからの様々な DNA/RNA ウイルス由来配列の
網羅的な検出とその解析に貢献することを目指しています。

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IDDK賞


  • 採択者  東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学
         講師 草間和哉 先生

  • テーマ  「宇宙環境において妊娠に必須の胎盤は正しくできるのか」

≪研究について≫
妊娠の成立機構とその破綻による妊娠関連疾患の病態機序の解明を行なっています。妊娠初期には受精、受精卵の成熟、子宮内膜への着床、胎盤形成と多くのステップを乗り越えることが必須です。これらの現象は哺乳類で共通の部分も多くありますが、種特異的な機構も多く、モデル動物での検証は限界があります。特にヒトにおいては倫理的観点からも研究が難しく、機構解明には不明な点が多くあります。生殖に対する宇宙環境の影響は様々検討されており、ラットやマウスを用いた研究により妊娠の成立や妊娠能の維持、受精卵の成熟などが検証されています。これらは宇宙環境においても、生殖補助医療により受精卵を作成し、それを母体に移植することで
妊娠できる可能性を示しています。しかしながら、妊娠の継続および胎児の発育に必須の胎盤が宇宙環境において正常に形成されるかを検証した研究はこれまでに
ありません。今回の採択課題は、胎盤の主要構成細胞である栄養膜細胞を用いて、胎盤形成に必須の細胞融合と細胞浸潤に対する宇宙環境の影響を検証することで、
胎盤形成が正常に誘導されるか明らかにします。そのために、栄養膜幹細胞の融合および移動能を半導体顕微観察装置マイクロイメージングデバイス(MID)を用いて
宇宙環境にて観察し、帰還したサンプルを遺伝子網羅解析することで観察データの裏付けをすることを最終目的とします。
本研究の最終成果は、妊娠・胎盤形成に対する微小重量や放射線等の影響を評価するため、人類が宇宙へ進出し、繁殖する上で最も重要な情報の一つになります。
胎盤形成において重力というエネルギーが必要か否かという情報は、将来的に胎盤の再生医療や人工胎盤作成を行う際に材料となる細胞の培養に有益であり、
応用できると考えています。

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