東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科 |
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2006年 |
東京農業大学大学院農学研究科バイオサイエンス専攻博士前期課程修了 |
【研究について】
現在の研究の内容・目的
培養して研究できる微生物は自然界のわずか数パーセント程度と言われています。そこで、培養を行わずに様々な環境サンプル(大気・食品・土壌・糞便・昆虫・人工環境表面
など)中に、どのような生物種がどの程度存在するかを調べるために、環境サンプル中から網羅的に核酸(DNA/RNA)を抽出し、次世代シーケンサー (NGS) を用いて
塩基配列を解読するメタゲノム解析を中心に研究を行っています。2021年からはCRESTコロナ基盤「超高感度ウイルス計測に基づく感染症対策データ基盤」研究の一環として、RNAウイルス検出のためのメタトランスクリプトームの技術開発を行っています。
今後どのような研究に取り組まれるのか
2020年に新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) のパンデミックが発生し、ヒトが接触する
人工環境表面(ドアの手すり、テーブル表面など)由来RNAからNGSを用いてRNAウイルスを含む網羅的な生物種の検出を試みる、いわゆる環境メタトランスクリプトーム解析の研究を始めました。人工環境表面からスワブ(綿棒)を擦って得られるRNAは極微量なため、シーケンスに必要なライブラリーを調製するためには、当初は高コストな
シングルセル用ライブラリー調製キットが必要と想定されましたがコスト面で現実的ではありませんでした。そこで、一般的なライブラリー調製キットを用いて
(NEBNext Ultra II Directional RNA Library Prep Kit、NEB社)プロトコルの要求RNA量未満から解析可能性を検証すると同時に、合成RNAのSpike-in実験により
SARS-CoV-2 RNAの検出限界を検証しました。その結果、使用したライブラリー調製キットの要求RNA量未満のTotal RNA量からでも、プロトコルの一部改変により
良好なライブラリーが得られ、Spike-inされたSARS-CoV-2 RNAの検出もできました。しかし、実際の環境表面由来RNAには、ウイルス・細菌よりもゲノムサイズが大きな
巨生物(真菌・ダニ・花粉等の真核生物)由来RNAが予想以上に豊富で、これらのRNAがウイルス由来リードの検出感度を低下させることを明らかにしました(Shiwa, Y. et al. Evaluation of rRNA depletion methods for capturing the RNA virome from environmental surfaces. BMC Res Notes 16, 142, 2023)。
上述の先行研究を踏まえて、今回申請する本研究では、様々な環境表面からRNAウイルスの網羅的な検出と感度向上を目指して、RNA抽出前に環境サンプルをフィルター濾過
することで、真菌・ダニ・花粉等の巨生物の除去を行い、ウイルス由来配列の検出感度の向上を目指します。
今後の研究応用の展望など
新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) の検査はPCRや抗原検査が
一般的ですが、PCR検査を行うにはウイルスのゲノム配列を解読して特異的なプライマーを設計する必要があります。本研究では今後も起こりうる未知の新興感染症による
パンデミックに備えるために、メタゲノム解析による環境サンプルからの様々なDNA/RNAウイルス由来配列の網羅的な検出とその解析に貢献することを目指しています。
【IRMAILについて】
我々研究者にとって多数の有用な情報を発信されているだけでなく、産学連携の観点から研究を助成されていることに感謝すると共に今後の益々の研究者支援を
お願いしたいです。今回NEB社との研究を進展できるチャンスを得られたことに深く感謝しています。
今後も我々の研究に欠かせないメーカー各社様と研究者の橋渡しが、よりよい製品開発と研究の進展に繋がることを期待しております。
先生のより詳しい研究内容はこちらから
東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科