2023年度 第10回IRMAILサイエンスグラント
「キアゲン賞」・「横河電機賞」採択者発表
キアゲン賞
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(左から)呼吸器外科 井上先生、矢追先生、内堀様 |
≪研究について≫ 早期非小細胞肺癌において、近年予後不良因子として新たに確立された腫瘍転移様式(経気腔進展;Spread Through Air Space, STAS)が発生する分子機構を 明らかにしようと研究を進めています。腫瘍実質の腫瘍細胞と比較して、そこから飛び出したSTASの細胞の分子的違いは未だ不明です。 そこで、空間トラスクリプトーム解析や多重免疫組織化学などの手法を使って、STASの分子的特徴を明らかにする一方、細胞系譜を推定する試みなどに取り組んで います。今後はシングルセル解析・モデル細胞株の作製などを通じて、STASの発生と予後不良を招く分子機構を、エピジェネティックな背景も含めて明らかにしたいと 思っています。また、こうした研究と併行して、STASに着眼することで、肺癌治療や患者のQOLの改善など臨床にフィードバックできるような仕事にも取り組んで いきたいと考えており、今回の採択課題はその端緒として位置付けています。現在、早期非小細胞肺癌の手術において、標準術式が変わる流れにあります。 しかしながら私たちは、STASを伴うか否かをもとに最も適した肺癌術式を選択することが、再発リスクを抑えることに寄与すると考えています。STASの有無は現状、 術後の組織病理検査で初めて確定されます。もし術前検査法があれば、適切な術式を選択することで再発リスクを低減させられる可能性があります。患者に極力負担を かけないリキッド・バイオプシーサンプルを用いるマイクロRNA検査法が、その有力な候補になることを期待しています。開発にあたっては、判定精度の高いマイクロRNAシグネチャーセットの同定に加え、性能の高い機械学習モデルの構築がカギになります。
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横河電機賞
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≪研究について≫ 科学技術の発展した現代においてもウイルス感染症との戦いは継続しています。新しい切り口での対策を開発するためにも、従来の分子レベルでの研究だけでなく、 ヒト生体内での感染症発症機序を理解するための研究が求められています。しかし、ウイルスが宿主細胞に取り込まれた後、ヒト生体内で感染が広がり発症に至る 過程について、未解明の部分が多いのが現状です。我々は最近、インフルエンザウイルスが感染初期過程において細胞間コミュニケーションを介して感染細胞の周囲の 非感染細胞に働きかけ、周囲の細胞において子孫ウイルスが取り込まれやすい環境を作り出すことを見出しました。これにより、感染細胞を起点に周囲の細胞に感染が 爆発的に広がっていくことが分かりました。また、細胞間コミュニケーションを積極的に行う”特異的細胞”が細胞集団の中に存在することを示唆するデータが 得られています。そこで、”特異的細胞”の特性を知ることができれば、ウイルスの感染拡大を防ぐことができるのではないかとの着想に至りました。 SU10を用いてウイルスを細胞にナノデリバリーすることで、1細胞のみが感染する状態を作り出します。その後、細胞間コミュニケーションが生じるか検証することで、上記仮説の実証を試みます。また、感染初期過程において感染細胞をSU10でナノサンプリングし、RNA-Seq等で解析することで”特異的細胞”の特性を明らかにします。細胞間コミュニケーションを積極的に行う”特異的細胞”の特性を知ることができれば、感染初期過程での感染を制御する鍵因子の同定につながると考えられます。 その鍵因子に対する阻害薬が感染抑制効果を有していれば、将来的な治療薬候補になりえます。以上のように、本研究が新しい概念での創薬開発へと展開していくことを目指しています。
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