横河電機賞 受賞者インタビュー

東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 RNA 生物学研究室
助教 山崎啓也 先生

受賞者プロフィール

2015年
2017年
2020年
2020年
2021年

現在に至る

京都大学総合人間学部総合人間学科 卒業
京都大学大学院生命科学研究科統合生命科学専攻修士課程 修了
京都大学大学院生命科学研究科統合生命科学専攻博士後期課程 修了
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 特任研究員
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 助教



【研究について】
生殖細胞が持つ遺伝情報が正しく保たれることは、次世代への個体の継承において非常に重要です。しかしヒトをはじめとした生物のゲノム上には、遺伝情報を損なう恐れがある「動く遺伝子」トランスポゾン領域が存在します。生殖組織特異的に働くPIWI サブファミリータンパク質 (PIWI) と小分子RNA であるpiRNA は、複合体(piRISC)を形成してトランスポゾンを抑制することで、不妊の原因となる生殖細胞でのゲノム損傷を防いでいます。piRNA 生合成経路は「一次生合成機構」と、トランスポゾンRNA の切断と共役した「二次生合成機構」( ピンポン経路) に大別されます。ピンポン経路は細胞質側の核膜周縁部に形成される「生殖顆粒」で行われます。生殖顆粒が形成されない個体はトランスポゾンの脱抑制や不妊の形質を示すことから、生殖顆粒形成メカニズムはpiRNA 経路の理解において非常に重要です。生殖顆粒にはRNA ヘリカーゼVasa やPIWI などのpiRNA 経路関連因子が局在しています。生殖顆粒を保持するカイコ卵巣由来培養細胞株BmN4 を用いた解析により、Vasa がRNA 依存的に液液相分離することで生殖顆粒を形成することがわかりました。piRISC によって切断されるトランスポゾンRNA とともに、液液相分離の足場となるRNA も存在するはずですが、それらのRNA 分子の内訳や局在機構には不明な点が多いままです。これはVasa が局在する生殖顆粒の流動性が非常に高く、細胞を溶解させて単離することが困難なことも要因となっています。そこで、横河電機社の細胞内サンプリングシステムSS2000 を用いて生殖顆粒を直接サンプリングすることで、生殖顆粒において濃縮されているRNA の同定や局在機構の解析を行なっていきたいと考えています。液液相分離によって構築される細胞内構造体は、RNAとの関わりが非常に深いことが数多くの研究により明らかにされてきました。生殖顆粒も例外ではなく切断を受けるトランスポゾンRNA、足場となるRNA やpiRNA など多様なRNA を含む構造体です。生殖顆粒の形成・機能におけるこれらのRNA の役割や、RNA の相互の関わりを詳細に紐解いていくことで、生殖細胞において遺伝情報が守られる仕組みの更なる解明を行なってきたいです。

【IRMAILについて】
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東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 RNA 生物学研究室