ヴァーダー・サイエンティフィック賞 受賞者インタビュー

名古屋大学 教養教育院
講師 伊藤英人 先生

受賞者プロフィール

2007年 北海道大学理学部化学科 卒業
2009年 北海道大学大学院理学院化学専攻 修士課程 修了
2009年 日本学術振興会特別研究員 (DC1)
2012年 北海道大学大学院理学院化学専攻 博士課程 修了
2012年 名古屋大学大学院理学研究科 日本学術振興会特別研究員 (PD)
2013年 名古屋大学教養教育院 講師
     名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻(化学系) 協力教員 兼任
     名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 共同研究者 兼任
     伊丹分子ナノカーボンプロジェクト(JST-ERATO) 共同研究者 兼任

現在に至る


(左)ヴァーダー・サイエンティフィック 高辻様と(右)伊藤先生

【現在の研究の内容・目的】
私は有機化学の力によってナノメートルサイズのグラフェンである「ナノグラフェン」を精密に合成する手法の研究に取り組んでいます。
ナノグラフェンはグラフェンから引き継ぐ高い電荷移動能や半導体特性などから有機EL、有機電界効果トランジスター、有機薄膜太陽電池などへの応用が期待できる次世代炭素マテリアルであり、その性質は周辺構造や大きさによって大きく変化します。様々な合成手法があるなか、有機合成化学の力によってベンゼン環一枚一枚の微細な構造を精密に制御して作る「ボトムアップ合成法」に注目が集まっています。しかしながら、本合成法では原料あるいは生成物が有機溶媒に溶けないという「溶解性問題」と常に向きあう必要があり、このため溶解性を向上させるアルキル置換基をつける必要が生じることや、濃度、温度、分子量の大きさ、反応スケールなどに大きな制限が生じてしまうといった問題を抱えています。

【貸与される製品の用途】
本研究では、ナノグラフェンの有機合成における限界を打破すべく、高エネルギーボールミルEmaxを用いた無溶媒中での効率的なナノグラフェンのボトムアップ固相合成を目指します。ボールミルEmaxの高い回転・粉砕能力は固相中での効率的な分子間反応にとって都合がよく、かつ他社にはない温度管理能力を活かすことで精密な反応条件の検討と高い実験再現性にも大きな期待がもてます。これらにより、分子の大きさ(分子量)、置換基の種類(溶解性)、反応スケールなどに左右されない自由自在な精密ナノグラフェン合成を実現したいと考えています。

【今後の研究応用の展望】
本研究が達成された暁には、ナノグラフェンに限らず同様な問題を抱える様々な有機反応に対しても、ボールミルEmaxを利用した有機合成手法を提案できると考えています。また、溶液中では全く起こらない反応(小松・村田らのフラーレンの二量化の例などが有名: Nature 1997, 387, 583)などの探索も非常に興味深いです

【IRMAILについて】
受賞に至り、切望していたヴァーダーサイエンティフィック社製のボールミルを使って1年間存分に研究ができる大変ありがたい機会をいただきました。IRMAILさんからの賞の応募に関するメールがなければこの貴重な機会を確実に逃していたので大変感謝しております。

伊藤先生のより詳しい研究内容はこちらから
名古屋大学 大学院理学研究科 物質理学専攻 化学系 有機化学研究室